オールドルーキー指導血風録②～貴様なんか既に死んでいる～

   新人ー呼びようがないんで、新人、で通そう。

   就職早々、不本意な怪我をしたということもあって焦りがあるようだ。まだ担当ケース持たなくていいんでしょうか、と聞かれた。

  いやいや、だってまだ実質1か月めでしょう。専門研修Ⅰもまだ受けてないでしょ。まっさらなんだから、ゆっくりやりましょう。でもまあ、一通り資格あるし。下地はあるでしょう。

「でも、A法人の時もB有限会社の時も、ケアマネも医療相談員もやらせてもらえませんでした。」

   うん。Aは実習でいったし、Bはケアマネになってすぐに仕事で関わったから知ってる。デカい組織だとなかなか若手にチャンスないとこもあるし、Bは女社長がくせ強いからね。

「精神保健福祉士はこれから絶対必要ですって言ったのに、取りたいなら有休使って行けって言われたし。」

   A法人、確か子どもの発達障害外来は持ってたけど、心療内科や精神科はないよね？まあいいか。

「Bではケアマネ合格したら、『残念なことに、今年は新人さんしか合格しませんでした』って公開処刑されて、やらせてもらえませんでした」

   うおう。えげつないな。だが、あの女社長も好き嫌い激しいからなあ。まあ苦労したねえ。ここらはそういうのはないから大丈夫だと思うよ。

   とまあ、経歴についてはさらっと流して。実際動いている私の担当ケースや、去年の更新研修の資料を使って勉強していただいた。覚えるのは早かった。さすが、参考書で自宅学習しただけある。

   その一方で。地域性って話になって、むかしは企業城下町で税収もあったけど、今は高齢化率30%だから、お年寄りの街だよと話した時に、彼女の口からこういう言葉が飛び出す。

「いくら企業城下町って言っても、関東じゃなく南東北ですよね。」

「大学もないし、民度低いし。」

   出身が名古屋だそうなんで、確かにこの辺りはド田舎だろう。でも、結婚して間もない訳じゃないし、20年以上住んでて出る言葉がそれでは、大丈夫なのか。それ、利用者の前で無意識に出るよ？(ちな、大学はあるのよ。サテライトみたいな感じで学部がひとつね。)民度とやらが何を指すのかは知らないけど、田舎が嫌いなのは何となく察した。

   発言にトゲがあるのを気をつけてもらえば、まあまあ行けるかな？プランも作れたし、アセスメントも大丈夫だ。後は、場数踏めば大丈夫。

   で、包括から来た新規依頼を対応してもらった。ここでまた色々あった。

   92歳女性、独居。右上腕骨骨折後で、デイサービスと歩行補助具希望。受傷前まで家事から家庭菜園の手入れまでしていたので、デイ以外の日は、受傷前の生活をしたいと希望されていた。

   お庭が広く、細かい砂利を固めてならしてある。

    杖歩行も可能だが、本人希望で家庭菜園の収穫物を持ち帰れるような補助具を選定となった。福祉用具事業所は、オフロードバイクのようなタイヤのついた歩行器を選定。荷物入れもついているので、本人の希望にそう。

    が。新人、いきなり「シルバーカーでは転びます！四点歩行器にすべきです！」と。

   いやいや待って。介護職員の皆さまはお分かりになると思うが、持ち上げて歩くタイプのアレである。確かにありかもしれんが。家庭菜園の収穫物、どうすんの？歩行器使ってたら持てないじゃないか。

「ビニール袋下げたらいいと思います。あの事業所は間違ってます。」

   なにその自信。でも決めるのは、利用者さん本人だからさ。納品日に両方持って来てもらえば？両方使って決めたらいいじゃない。なんでそんな不満顔？おばさん、なんか気に触ること言った？

   結果から申し上げると、事業所提案のシルバーカーに決定した。荷物が入るのと、押しながら歩けるのが利用者さんにはよかったそうな。新人は、事業所側がおかしいし、利用者もシルバーカーを選ぶのは間違っていると不満たらたらだった。